勉強の醍醐味

よく聞かれるのだが、英文ライティングを勉強していて何が楽しいかというと。
簡単に言うと、自分の成長がわかること。
昔書けなかった文章が書けるようになる。
これが楽しい。
下の文章は先日返却された添削の課題原稿である。
これを元に自分の昔のライティング技術を振り返ってみよう。

「(前略)それにロタウイルスワクチンの配給も簡単だろうと予想された。というのも、WHOやユニセフが後援する小児予防接種計画では今や世界の子供の約80%に定期接種すべきワクチンを配給しているのだから、このような計画に間違いなく加えられるはずのロタウイルスワクチンであれば、どんな遠いところに住む子供たちにも接種の手が届くだろう。」
(日経サイエンス2006年7月号「ロタウイルスから子どもを守れ」より抜粋)

この記事には医薬の専門的な内容も含まれるが、上に挙げた抜粋は一般的な内容である。
読んでもらったらわかるが、2文目が長い。
これを各時代の私はどう訳すか。
(学習年数は適当)
<初級時代(学習歴1〜3年?)>
訳すことはできず、お手上げ状態。
原稿を見て、自分の能力ではこれは到底無理だと思う。
よく語学に詳しくない人が、「基本的な文法を知っていれば、和英辞書さえあればなんとか訳せる」と勘違いしているが、それは間違いである。
仮に、和英辞典を使い、かなりの時間をかけて無理やり訳すことができたとしても、それはたいていの場合、用語の選定・文章の表現において間違いだらけであると予想される。
ひどい場合には、文として破綻している場合もあるだろう。
初級者は、文章のうまい・下手以前に、正確に意味を伝えることができない。
これは致命的である。
<中級時代(前半)(学習歴4〜6年?)>
この時代になると、訳してみようという気にはなるかもしれない。
ただしかなりの時間がかかるだろう。
やはり2文目が難しい。一文が長く、多くの要素が入りすぎている。
これを英語で一文で訳しきるほどの構成力、文法力はない。
仕方がないので、この文章を要素に分けるという方法をとる。
文章構成を変更して、文意のみをなんとか伝える。
文章を分けるとすると、このようになる。

  1. WHOやユニセフは小児予防接種計画を後援している。
  2. その小児予防接種計画は子供に定期接種すべきワクチンを配給している。
  3. ワクチンを配給されているのは世界の子供の80%である。
  4. ロタウイルスワクチンはその計画に間違いなく加えられると考えられる。
  5. そのため、ロタウイルスワクチンはどんな遠いところに住む子供たちにも接種の手が届くだろう。

文章をを分けたため繰り返しが発生し、冗長になっている。
訳しやすさはアップしたが、読むほうは読みづらい。
文章のつながりがわかりにくい。
しかし訳し訳くなったとはいえ、やはり表現力の不足から、正確に訳せない部分がある。
以下の太字の部分。

定期接種すべきワクチン
このような計画に間違いなく加えられるはずのロタウイルスワクチン
どんな遠いところに住む子供たちにも接種の手が届くだろう。

用語については、逐一辞書を調べなければわからないレベル。
そのため、用語選定の適切さを欠き、正確さはまだまだであろう。
文章の上手さについては言うまでもない。
<中級時代(後半)(学習歴7〜8年)>
この時代であれば、訳せないということはないだろう。
用語の選定・正確さについてはまずまず。
半分くらいを辞書で調べるかもしれない。
構成力はまだまだで、2文目を一文で上手にまとめられない。
表現も稚拙なところがあり、意味はわかるが記事という文体にはそぐわない部分もある。
ネイティブが読んで意味は通じる、しかし洗練された文章にはもうひとつ、というレベルか。
<現在(学習歴9年)>
昔に比べて訳す時間は格段にスピードアップしている。
文の構成については大分自信がついてきた。
例の2文目のような文章が来ても、「よしきた!」と思って嬉々として訳している。
構成を考えるのは一種のゲーム感覚である。
用語について。
一般的な内容の用語はだいたい見当がつくようになっているので、逐一辞書にあたるということはない。
まず何も見ないで全部を書き、不安なところのみ調べる。
辞書は名詞を調べるのと、確認するのが主な用途である。
実際に私が添削に提出した英文を見てみよう。

「(前略)それにロタウイルスワクチンの配給も簡単だろうと予想された。というのも、WHOやユニセフが後援する小児予防接種計画では今や世界の子供の約80%に定期接種すべきワクチンを配給しているのだから、このような計画に間違いなく加えられるはずのロタウイルスワクチンであれば、どんな遠いところに住む子供たちにも接種の手が届くだろう。」
Also, the distribution of the rota virus vaccine was considered easy. The vaccine would reach most of the children how far they live in the world since the vaccine would be included with an almost 100 % chance in the vaccination plan for children sponsored by WHO and UNICEF, which distributes vaccine on regular basis to about 80 % of children all over the world.

以下の箇所の訳にてこずった。

どんな遠いところに住む子供たちにも接種の手が届くだろう
(私の訳)"The vaccine would reach most of the children how far they live in the world"

適切な訳が思いつかないので、半分無理やり訳した。
日本語の「手が届くだろう」に引きずられたというのも半分あるが、"reach"を使ってみた。
この部分は添削で直されてしまったので、reachで意味が通じるかどうかは結局不明。
今見ると、"how far..."は文法的におかしい。"however far"ならOKだろうか?
次は、ネイティブドクターに校正されたもの。
太字が主な変更点。

Also, distribution of a rotavirus vaccine was considered to be easy. It was expected that the vaccine would be given to most children no matter where they lived, since a rotavirus vaccine was almost certain be included in the vaccination program for children sponsored by the WHO and UNICEF, which distributes vaccines on regular basis to about 80 % of children around the world.

全体の構成に変更はない。お墨付きをもらったようでうれしい。
懸念の"how far"は"no matter where"と直されている。ほー、そうか、と感心。
「間違いなく」は"be almost certain"を使っている。今度から使おう。
時制の間違いが2箇所あるのが気になる。

  1. how far they live → no matter where they lived
  2. since the vaccine would be included→since a rotavirus vaccine was almost certain be included

注意力が欠けているのと、理解が足らないところがあるのが原因だろう。
後半はほぼ修正なしでうれしい。

今や世界の子供の約80%に定期接種すべきワクチンを配給しているのだから
which distributes vaccines on regular basis to about 80 % of children all over around the world

"all over the world"と"around the world"の違いがわからない...。
ネイディブではないので、冠詞使いやこのレベルのニュアンスの違いはあきらめることにしている。